無痛分娩について
欧米では以前より無痛分娩が普及しておりましたが,日本でも2018年ころより無痛分娩で出産される方が増えてきております.当院でも2024年6月より無痛分娩を開始しています.
「無痛」というと,全く痛みを感じることなく赤ちゃんが生まれそうと考えがちですが,いきむことを可能にし,ご自身の力で出産していただくため,実際には陣痛時のお腹の張りや赤ちゃんが骨盤をおりてくる感覚は残すようにします.
麻酔の方法について
当院では脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の2つの方法のいずれかで麻酔を行います.重大な合併症の発症がより低い,脊髄くも膜下麻酔をおもに施行していますが,いずれの方法も腰部から麻酔を行うことで,子宮や産道から伝わる痛みを脊髄で遮断するため出産時の痛みを効果的に和らげることができます.麻酔の方法の選択は分娩を担当する医師が,分娩の進行状況,妊婦さん固有のリスク,病棟の状況を考慮して選択します.
①脊髄くも膜下麻酔
背骨の神経がある脊髄くも膜下腔に直接麻酔を注入する方法です.①使用する薬物の量が少なくてすむ,②呼吸停止など重大な合併症の発症率が低い,③麻酔施行が比較的容易で短時間ですむ,などがこの麻酔法の長所です.お産が長時間にわたれば,分娩まで数回施行する必要があります.
脊髄くも膜下麻酔
②硬膜外麻酔
背骨の神経の外側にある硬膜外腔にカテーテルを挿入,固定し麻酔薬を注入します. 一度カテーテルを挿入すれば長時間の分娩も対応可能ですが,カテーテルの誤挿入による麻酔の効きすぎに起因する重大な副作用(高位脊髄くも膜下麻酔・局所麻酔中毒)に注意が必要であったり,カテーテル挿入にやや時間がかかるという欠点があります.
硬膜外麻酔
上記2つの方法の比較を表にします.
※高位脊髄くも膜下麻酔,局所麻酔中毒:カテーテルの先端の位置が不適切なことにより起こる,麻酔が異常に効きすぎる状態.妊婦に呼吸不全などを起こす.
無痛分娩を実施するまで
① 当院無痛分娩教室の動画をご覧いただきます.
当院でかかりつけの妊婦さんには動画のURLを記載したパンフレットをお渡ししておりますので,外来スタッフに声をかけてください.
②無痛分娩外来
妊娠35週頃に無痛分娩外来を受けていただきます.アレルギー,既往歴,前の分娩経過などを問診します.また背中の針を刺す場所である,背骨と背中の空き具合などを視診・触診で確認したり,血が固まりにくい状態にないか確認するため,採血をします.
※分娩時入院までに「無痛分娩外来」を受診されていないと無痛分娩はできませんのでご注意ください.
③分娩当日
陣痛発来・破水があった場合,いよいよ入院となります.分娩が順調に進行し,一定以上の痛みが出現するようになってから,麻酔を開始します.麻酔は分娩後すみやかに終了とします.
※無痛分娩する,しないにかかわらず,ご希望の方には計画分娩を行います.その際はスタッフにお声かけください.
無痛分娩費用について
無痛分娩 に関してよくある質問
Q. 赤ちゃんに与える影響は?
A. 無痛分娩に使うお薬が⾚ちゃんに届く量はとてもわずかです。⾚ちゃんが眠ってしまったり・・というような悪い影響はありません。逆にお⺟さんが過剰なストレスから過換気になってしまうことを防いで、⾚ちゃんにしっかりと⾎液や酸素を送ってあげられることが期待されます。また、投与するお薬の量が少ないため、分娩直後に授乳をしてもらっても全く問題ありません。
Q. 無痛分娩にしたら全然痛みがないのですか?
A. 痛みの感じ⽅は、ひとりひとりでかなり違います。また同じ⼈でも、その時の体調や精神状態にも⼤きく左右されます。ですから⿇酔中には痛みの強さを0〜10の数値で表現していただいたり、⿇酔で感覚が鈍くなっている範囲を触って確かめたりしながら、⿇酔の量を調節していきます。これは、⿇酔が効きすぎてしまうとお腹に全然⼒が⼊らなくていいきめなくなってしまったり、おかあさんの⾎圧が下がってしまうことで、胎盤への⾎流量が減って⾚ちゃんががしんどくなってしまうことがあるので、それを避けるためです。
ですから痛みを全くゼロにすることを⽬指すのではなく、“お腹が張ったときにはちょっと痛いけど、張るのはしっかりわかるし⾜にもお腹にもしっかり⼒が⼊る”状態、を⽬標にお薬の量を調節していきます。
Q. 分娩中の過ごし方は?
A.
【お⾷事・飲み物に関して】
⿇酔を始めてからは、基本的にお⾷事はとれませんが、⽔分(お茶・スポーツドリンク・果⾁⼊りでないジュース・ブラックコーヒー(⽜乳⼊りは×)・コーラなど)、溶けやすい形状のアイスキャンディー(脂肪分がはいっていないもの)、飴・ガムなどは好きにとっていただけます。
【どれくらい動けるの?】
⿇酔開始後は、少し⾜に⼒が⼊りにくい感じになることがあるので、⽴ち歩くところんでしまう危険があります。このため基本的にはベッドの上で、⾃由に過ごしていただきます。また⿇酔中は下半⾝の感覚が鈍くなっているので、床ずれ防⽌の為、定期的に体の向きを変えてください。トイレは導尿と⾔って細いカテーテルの管を⼊れたり、スタッフ付き添いの上で歩いていっていただいたりします。導尿の際にも、⿇酔が効いておりますので痛くありません。
【機器の装着をお願いします】
胎児⼼拍陣痛モニター・⼼電図・⾎圧計・サチュレーションモニター(体の中の酸素の量を測る機械)を、⿇酔開始後から⾚ちゃんが⽣まれるまでつけていただきます。⾎圧は、⿇酔開始直後は何度も、その後は15分に1回測定いたします。
Q. 無痛分娩で起こりえる副作用や合併症は?
A. 副作用・合併症について説明します.
副作用
点滴や昇圧薬を投与し治療します。お母さんには仰向けよりも血圧が下がりにくい横向きの姿勢をとっていただくことがあります。
分娩第二期(子宮の出口が完全に開いてから赤ちゃんが生まれるまで)の時間が延長する場合、帝王切開の必要性を減らすため、陣痛促進剤や吸引分娩が必要になります。
足の感覚が鈍くなったり、動かしにくくなることがあります。
尿意を感じにくくなったり、排尿をしにくくなることがあります。 その際、尿道に管を入れて排泄の処置をします。
分娩が進行すると起こりやすくなります。また、麻酔による血圧低下を原因とする場合もあります。
産後2~3日の間、腰痛が継続することがあります。また、出産によって引き起こされる痛みを原因とする場合もあります。
合併症
分娩中に痛みがとれない。もしくは身体の片側だけ麻酔の効果が表れていない。
産後、ひどい頭痛が続くことがあります。
カテーテルが脊髄くも膜下腔や血管内に入ってしまうことがあります。
【脊髄くも膜下腔に入る場合】
麻酔が肩や手まで広がり、足に力が入らないなど
【血管内に入る場合】
局所麻酔薬中毒になり、けいれん、不整脈などが起こります。
・硬膜外血腫‥‥‥‥‥‥‥(1/100万人)
・硬膜外膿瘍‥‥‥‥‥‥‥(1/5万~10万人)
・重大な神経障害‥‥‥‥‥(1/25万人)
分娩が原因で脚のしびれが起こることもあります。